運動で若返るのは本当? 筋トレは週何分がよいのか、歩数や歩く速さと寿命の関係、運動で筋肉から出る「若返りホルモン」と呼ばれる物質、細胞の老化の目印が変わったという研究まで、わかっていることとまだわからないことを、論文をもとにやさしく解説します。
最終更新:2026年10月26日
この記事でわかること
- 筋トレは「週に何分」がよいと報告されているのか、やればやるほどよいのか
- 歩数・歩く距離・座っている時間と、寿命や認知症との関係
- 運動で出る「若返りホルモン」と呼ばれる物質について、わかっていることと議論が分かれていること
- 運動やヨガで「細胞の老化の目印」が変わったという研究の中身と、その限界
運動で本当に若返るのか? いまの研究でいえること
「運動すると若返る」という言葉をよく見かけます。では、研究ではどこまでわかっているのでしょうか。
まず、多くの人を長い年月追いかけた研究から、よく体を動かす人ほど、亡くなるリスクや病気になるリスクが低い傾向があることが、くり返し報告されています。
一方で、「運動をすると体が若い状態に戻る」ことが証明されたわけではありません。最近は、運動によって血液中の「細胞の老化の目印」が変わったという報告も出てきました。ただ、まだ人数の少ない研究が中心です。
この記事では、①長く追いかけた研究でわかったこと、②運動で出る物質の話、③細胞の老化の目印を調べた研究、の順に見ていきます。
筋トレは週に何分がよい? 多ければ多いほどよいのか
筋トレ(筋力トレーニング)と寿命の関係をまとめた研究があります。東北大学などの研究グループが、これまでに発表された16本の研究(対象は18歳以上の大人)をまとめて分析し、2022年に報告しました(このような分析を「メタ分析」といいます)。
その結果、筋トレをしている人は、していない人に比べて、すべての原因による死亡、心臓や血管の病気、がん、糖尿病のリスクが10〜17%ほど低いという関係が見られました。
興味深いのは、時間との関係です。
- すべての原因による死亡のリスクが最も低かったのは、筋トレが週に約40分のときでした(約17%低い)。
- 死亡、心臓や血管の病気、がんでは、グラフが「J」の字のような形になりました。週30〜60分あたりでリスクが最も下がり、それより多くなると、下がり方が小さくなっていきます。
- 週に約130〜140分までは、筋トレをしない人よりリスクが低い範囲にありました。それより多い場合については、データが少なく、はっきりしたことはわかっていません。
- 糖尿病だけは、週60分ほどまでリスクが大きく下がり、その後は横ばいの「L」の字のような形でした。
つまり、「筋トレは多ければ多いほどよい」とは言えない、というのがこの研究の示したことです。研究者たちも、たくさんやった場合の影響ははっきりしないと述べています。
また、筋トレとウォーキングなどの有酸素運動(息が少しはずむくらいの運動)の両方をしている人では、どちらもしていない人に比べて、すべての原因による死亡のリスクが約40%低いという結果も出ています。
ただし、この研究は「筋トレをしているか」を本人へのアンケートなどで調べたもので、筋トレが寿命を延ばしたという原因と結果の関係まで示したものではありません。研究の数が少ないことも、著者自身が限界としてあげています。
歩く量・歩く速さ・座る時間は、寿命とどう関係するのか
筋トレをしない人でも、日々の「歩く」ことが関係しているようです。
1日の歩数
アメリカの40歳以上の約4,800人に歩数計(加速度計)をつけてもらい、約10年追いかけた研究があります(2020年)。1日4,000歩の人に比べて、8,000歩の人は、すべての原因による死亡のリスクが約半分(0.49倍)、12,000歩の人は約3分の1(0.35倍)でした。一方で、歩く速さ(勢い)は、歩数の影響を差し引くと、はっきりした関係が見られませんでした。
歩く距離と認知症
ハワイに住む71〜93歳の男性約2,300人を調べた研究では、1日に歩く距離が約400メートル未満の人は、約3.2キロ以上歩く人に比べて、認知症になるリスクが約1.8倍でした(2004年)。
歩く速さ
65歳以上の約3万4,000人のデータをまとめた研究では、歩く速さが速い人ほど、その後の生存率が高いという関係が見られました(2011年)。
座っている時間
カナダの18〜90歳の約1万7,000人を約12年追いかけた研究では、1日のうち「ほとんど座っている」人ほど、亡くなるリスクが高い傾向がありました。この関係は、余暇に運動をしているかどうかに関係なく見られました(2009年)。
これらはすべて「観察研究」と呼ばれるもので、関係があることは示していますが、原因と結果ははっきりしません。たとえば、もともと元気な人だから、よく歩けるという面もあるからです。
運動で出る「若返りホルモン」とは? 議論が分かれる理由
「運動 若返りホルモン」という言葉で検索する人も多いようです。これは正式な学術用語ではありません。主に、運動したときに筋肉から出る物質のことを指して使われています。
筋肉は、体を動かすだけの組織ではありません。筋肉からは数百種類ものタンパク質などが出ていて、血液にのって脂肪や肝臓、骨、脳などに「合図」を送っていると考えられています。こうした物質は「マイオカイン」(マイオ=筋肉、カイン=作用する物質)と呼ばれています。
その中で特に話題になったのが「イリシン」です。2012年、アメリカの研究グループが、マウスの筋肉で運動によって作られるこの物質を見つけ、脂肪をエネルギーを燃やしやすい状態に変えると報告しました。この発見をきっかけに、イリシンは「運動ホルモン」などと呼ばれ、注目を集めました。
ところが、その後、議論が起こりました。
- 2015年、ドイツなどの研究グループは、ヒトの血液のイリシンを測るのに使われていた市販の検査キットが、イリシン以外のタンパク質にも反応していたと報告しました。そして、それまでの測定結果には疑問があると指摘しました。
- 同じ2015年、最初に発見したグループは、より正確な方法(質量分析)でヒトの血液を調べ、イリシンが確かに存在することを報告しました。運動習慣のない人で約3.6ng/mL、持久系の運動トレーニングをしている人で約4.3ng/mLと、わずかな差でした。
いまでは、ヒトの血液にもイリシンがあることは示されたものの、ヒトの体の中でどんな働きをしているのかは、まだはっきりしていません。マウスで見られた働きが、そのままヒトにあてはまるとは限らないのです。
運動で出る物質は、筋肉からだけとも限りません。2020年のマウスの研究では、運動した年老いたマウスの血液の成分(血しょう)を、運動していない年老いたマウスに入れると、脳で新しい神経細胞が生まれやすくなり、記憶のテストの成績が良くなったと報告されています。このとき関わっていたのは、肝臓で作られる酵素でした。ただし、これはマウスの実験です。
このように、運動が体のあちこちに「合図」を送っていることは、研究で少しずつわかってきています。しかし、「この物質が出るから若返る」と言える段階ではありません。
運動で「細胞の老化の目印」は変わるのか
体の老化を細胞の単位で見ると、分裂をやめても死なずに残り続ける「老化細胞」が増えていくことが関わっていると考えられています。老化細胞の目印として、細胞の分裂を止めるブレーキ役のタンパク質(p16やp21)などが使われます。
アメリカのメイヨー・クリニックの研究グループは、平均67歳の高齢者34人に、12週間、週2日の筋トレと持久系の運動を組み合わせたプログラムを行ってもらいました(2021年)。その結果、次のような変化が報告されています。
- 血液中の免疫細胞(T細胞)で、p16やp21など、老化に関わる遺伝子の働きが弱まっていた
- 老化細胞が出すとされる、炎症などに関わるタンパク質の一部が、血液中で減っていた
- 握力や、いすから立ち上がる動作、歩く動作のテストの成績が良くなった
この研究は、運動と細胞の老化の目印の関係をヒトで調べた、早い時期の報告として注目されました。ただし、人数が少なく、運動をしなかった人と比べる「対照群」がありません。研究者自身も、対照群がないことを限界としてあげています。また、血液中の目印が減ったことで、病気が減ったり寿命が延びたりするかどうかは、まだわかっていません。
ヨガや瞑想で、細胞の老化の目印は変わるのか
インドの研究グループは、ヨガや瞑想を中心にした生活習慣のプログラムで、細胞の老化の目印がどう変わるかを調べています。
31歳の男性1人の報告(2015年)
肥満のある31歳の男性1人が、10日間のヨガのプログラム(ポーズ、呼吸法、ストレスへの対処法、講義など)に参加し、90日後まで調べた報告です。テロメラーゼ(染色体の末端にある「テロメア」を伸ばす働きをもつ酵素)の働きや、β-エンドルフィンが増え、活性酸素やDNAの傷の目印は減っていました。たった1人の記録なので、ここから効果があるとは言えません。
健康な人96人の研究(2017年)
同じグループが、健康な人96人に12週間のヨガと瞑想のプログラムを行ってもらった研究です。テロメラーゼの働きが高まり、コルチゾールやIL-6、活性酸素などは低くなったと報告されています。ただし、テロメアの長さそのものは、伸びる傾向はあったものの、はっきりした差にはなりませんでした。また、この研究にも対照群がありません。
ヨガや瞑想と細胞の老化の関係は、まだ小さな研究が中心です。ヒトで確かなことを言うには、もっと大きく、比べる相手のいる研究が必要です。
運動を始めるときに知っておきたいこと
ここまでの研究から、一般的にいえることをまとめます。
- ゼロより少しでも:歩数や筋トレの研究では、まったく動かない状態から少し動くようになることで、リスクの差が大きく見られました。
- 筋トレはほどほどに:筋トレは週30〜60分ほどで死亡リスクが最も低い傾向でした。たくさんやるほどよいとは限りません。
- 組み合わせる:筋トレと有酸素運動の両方をしている人で、よりリスクが低い傾向がありました。
- 座りっぱなしを減らす:運動の時間とは別に、座っている時間の長さも関係していました。
持病のある方、高齢の方、しばらく運動をしていなかった方は、新しく運動を始める前に、かかりつけの医師に相談してください。痛みや息苦しさを感じたら、無理をせず中止しましょう。
研究を読むときに気をつけたいこと
運動と老化の研究は、ニュースやSNSでもよく取り上げられます。次の点を確かめると、情報を落ち着いて読むことができます。
- 観察研究か、試験か:「よく運動する人は長生き」という研究の多くは観察研究です。運動が原因なのか、もともと元気な人が運動しているのかは、区別しきれません。
- ヒトか、マウスか:イリシンや血液の成分の研究には、マウスの実験が多く含まれます。
- 人数と対照群:細胞の老化の目印を調べた研究は、数十人〜100人ほどで、比べる相手のいない研究が中心です。
- 目印が変わっただけか、健康が変わったのか:血液中の目印が変わっても、それで病気が減ったことが証明されたわけではありません。
よくある質問
Q. 筋トレは毎日やったほうがよいのですか?
A. 16本の研究をまとめた分析では、死亡リスクが最も低かったのは、筋トレが週に約40分のときでした。たくさんやるほどよいという結果ではありませんでした。ただし、これは観察研究で、最適な量が確定したわけではありません。体力や体調に合わせて、無理のない範囲で続けることが大切です。
Q. 「若返りホルモン」は、運動するとたくさん出るのですか?
A. 「若返りホルモン」は正式な名前ではなく、主に運動で筋肉から出るマイオカインなどを指して使われています。代表的なイリシンは、ヒトの血液にあることは確かめられましたが、運動による増え方はわずかで、ヒトでの働きはまだはっきりしていません。
Q. 1日何歩くらい歩けばよいのですか?
A. アメリカの研究では、1日4,000歩の人に比べて、8,000歩の人は死亡リスクが約半分という関係が見られました。ただし、これは「歩数が多い人ほどリスクが低い」という関係を示したもので、何歩歩けば必ずよいという目標ではありません。
Q. ヨガで細胞の老化は止まるのですか?
A. ヨガや瞑想のプログラムで、テロメラーゼの働きなどの目印が変わったという報告はあります。しかし、1人だけの記録や、比べる相手のいない研究が中心です。細胞の老化を止めると言える段階ではありません。
まとめ
- よく体を動かす人ほど、死亡や病気のリスクが低い傾向が、多くの観察研究で報告されている。ただし、運動で「若返る」ことが証明されたわけではない。
- 筋トレは週30〜60分ほどでリスクが最も低い傾向があり、多ければ多いほどよいとは言えない。有酸素運動との組み合わせで、よりリスクが低い傾向も見られた。
- 運動で出る「若返りホルモン」と呼ばれる物質(イリシンなど)は、ヒトでの働きについて議論が続いている。
- 運動やヨガで細胞の老化の目印が変わったという報告はあるが、人数が少なく、対照群のない研究が中心で、これから確かめていく段階にある。
関連ページ
引用・参考文献
- Momma H, et al. Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. British Journal of Sports Medicine. 2022.
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※本記事は老化研究に関する一般的な科学情報を紹介するものであり、特定の疾病の診断・治療・予防や、特定の製品の効果を示すものではありません。動物レベルの研究を含みます。